【児童思春期のための神経性やせ症治療】FBT(Family-Based Treatment)

2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下での摂食障害やボディ・イメージの問題の悪化が報告されています。日本も決して例外ではなく、特に小中高生の神経性やせ症患者の増加が指摘されています。Family-Based Treatment(FBT)は、児童・思春期の神経性やせ症治療の第一選択肢として世界的に推奨されている治療アプローチです。海外では、FBTは児童思春期の神経性やせ症に対するスタンダードな治療法ですが、日本でFBTを実践する治療者は未だ少なく、国内では公式にFBT治療者の育成を担う団体は未だありません(2023年1月時点)。ただし、将来的には日本でもこの治療がスタンダードになるよう、FBT治療者育成のための研修体制の整備や、日本の医療現場に合ったFBT診療マニュアルの開発などが進んでいます。このページでは、ご家族や専門家に向けて、FBTに関する情報を集めて掲載しています。

【FBT(Family-Based Treatment)とは:目次】
1)FBTとは
2)FBTは誰が行うのか
3)FBT治療の内容と流れ
4)FBT治療を始める際に注意すべきこと
5)日本でFBT治療を受けるには
6)FBTについてもっと詳しく知るには

7)関連情報
8)FBTについて学びたい専門家向け講座
9)FBT的な家族の関わりを学ぶ、ご家族向け講座

10)新・家族ができる神経性やせ症の食事支援/90分ダイジェスト版
11)FBTを経験した家族の物語

1)FBTとは
FBTはFamily-Based Treatmentの略で、その名前が示すように、家族が治療の土台となる、摂食障害の治療アプローチです。英国のモーズレイ病院の児童思春期摂食障害外来クリニックで行われていた治療方法が元になっています。モーズレイ方式の治療はFamily Therapy for Anorexia Nervosa; FT-ANとも呼ばれます。FBTとFT-ANは同じ理論原則に基づいたもので、現時点では、児童思春期の神経性やせ症に対して最も有効性が確認された治療法として国際的に知られており、海外の多くの治療ガイドラインにおいて、年齢の若い(およそ20歳未満)神経性やせ症患者への治療の第一選択肢であるべきだと明記されています。治療は原則として外来で行われ、医学的に安定した注1)患者を対象とすることが特徴です。

注1)ここでいう「医学的に安定した」とは、患者の体重が健康体重のおよそ70%以上で、外来治療が可能な状態であることを指します。
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2)FBTは誰が行うのか
FBTは、家族とFBT治療者、そして医療の専門家が治療チームを組み、それぞれの役割を担いながら、患者が家庭で回復していけることを目指す治療です。治療チームの最も重要なキーパーソンは両親注2)で、病気の影響で正常な思考力・判断力が失われている患者に代わり、速やかな回復のための食事摂取を主導していく役割を担います。その取り組みを支援するのがFBT治療者で、FBT治療者は摂食障害やFBTについての専門的な知識をもち、家族が最も効果的に患者にかかわれるようサポートします。そして、治療を医学的な側面から支える医療者(小児科医、精神科医、心療内科医など)は、治療を安全に進められるよう、患者の心身の状態を常時モニタリングし、治療の経過の中で起こり得る身体的・精神的リスクを評価します。その上で、必要と判断される場合には、心身の安定を取り戻すための短期入院治療や薬物療法などを行います。通常は、FBT治療者の役割は公認心理師や臨床心理士などの心理の専門家が担いますが、そのような役割分担が難しい場合には、医療者がFBT治療者を兼任することもあります。このほかに、きょうだいも、その年齢にふさわしいやり方で患者の回復を応援する関わりをします。

注2)ここでいう「両親」とは、患者の日常生活において保護者の役割を担う親(またはそれに代わる養育者)のことを指します。
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3)FBT治療の内容と流れ
FBTは手順がマニュアル化されており、スタンダードな型では、およそ12ヶ月間かけて三段階の治療に取り組みます。すべての面接に患者と家族注3)が参加します。

第一段階では、患者の速やかな体重回復注4)に焦点が置かれます。家族全員に摂食障害がどのような病気でそれがどのような影響を患者に与えるかについても学んでもらいます。第一段階中は、両親が患者のすべての食事と間食を管理します。すなわち、メニュー決め、準備と調理、配膳を両親が主導で行い、食事に付き添い完食を見届けます。それだけでなく、両親は、患者の食べることや太ることへの恐怖に起因する摂食障害行動(抵抗やパニック、過活動、食事にまつわる様々なルールやルーティンなど)を減らすことにも取り組みます。第一段階の間、FBT治療者は、およそ週一回の頻度で患者と家族と合同面接を行い、体重回復注2)と摂食障害行動の改善のために両親が患者に効果的にはたらきかけられるようサポートします。

第二段階への移行は、患者が健康体重のおよそ90%を達成し注5)、食べることへの抵抗が減っていることが、患者の言動から確認できるようになったことを目途に行います。第二段階では、食べることの決定権や主導権を、回復の度合いに応じて、少しずつ患者に戻していきます。第二段階は、およそ2週間に一回のFBT治療者との家族面接を通じて、残りの体重回復および摂食障害行動の克服に患者が主体的に取り組めていること、両親がそれを後押しできていることを確認しながら進めていきます。

第三段階では、健康体重への到達とその維持、そして不安や恐怖を感じずに食事が取れるようになったことを確認し、FBT治療の終結に向けて準備を進めていきます。第三段階では、FBT治療者は、月に一回程度の面接の中で、再発防止の計画を立てながら、患者や家族が本来の生活にスムーズに戻っていけるようサポートします。

注3)スタンダードなFBTでは、(両親ときょうだい等)家族全員の参加が原則ですが、実際の治療では個々の家族の事情を考慮して誰が参加するかを決めます。
注4)ここでいう「体重」は、摂食障害になる前の体重ではなく、患者の性別や年齢、身長、および発育歴を考慮した上で推計される、本来あるべき健康体重のことを指しています。
注5)女性の場合は、月経の再開(または初潮の発来)が目安となります。

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4)FBT治療を始める際に注意すべきこと
・実際の治療は、患者の病気の重さや家族の事情に合わせて行っていくため、治療期間は個々のケースによって異なります。
・体重回復を安全に行うためは、FBT治療を始める前に専門医による患者の身体状況の評価を受けること、そしてFBT治療中も継続して身体状況のモニタリングを受けることが必須です。FBT治療を受ける際には、医師の関与が継続的にあることを確認してください。
・FBTの体重回復は、無理やり食べさせる行為では決してなく、家族のあたたかくも毅然とした、そして粘り強い見守りに支えられて実現するものです。患者の身体を押さえつけて無理やり食べ物を口に入れたり、暴力や脅しを使って食べさせようとしたりすることは虐待行為にあたります。
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5)日本でFBT治療を受けるには
2023年1月時点において、FBT実施施設に関する情報はあいにく未整備となっていますので、FBT治療者をお探しのご家族は、まずは受診予定の(あるいは受診中の)専門治療機関にFBTのトレーニングを受けた治療者がいないか問い合わせてみてください。
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6)FBTについてもっと詳しく知るには
FBTについてより詳しく知りたい場合は、家族向けに書かれた以下の書籍をご参照ください。
『家族の力で拒食を乗り越える:神経性やせ症のための家族療法ガイド』
マリア・ガンシー 著  
井口敏之/岡田あゆみ/荻原かおり 監修・監訳
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7)関連情報
・岡田あゆみ医師 取材記事
(岡山大学病院小児心身医療科科長/2020年からFBTに取り組んでいらっしゃいます)
 「摂食障害の一つ「神経性やせ症」の子ども増加 新型コロナ禍で生活環境変化影響
 岡山大学病院の取り組みを聞く」

・読売新聞記事(2023年2月21日) 
 摂食障害<5>短期回復へ家族ぐるみで

・「臨床精神医学」2023年3月号(特集/摂食障害up to date)
 児童思春期の神経性やせ症のためのFamily Based Treatment(FBT)
 東京インターナショナルサイコセラピー 荻原 かおり

・朝日新聞医療サイト>朝日新聞アピタル(2023年6月17日)
 子どもや10~20代で摂食障害が増加 「コロナ太り」きっかけも
 「おばけ」に乗っ取られた 摂食障害に苦しむ娘を両親は抱きしめた


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11)FBTを経験した家族の物語

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